ある会社から、相談を受けました。
「商品ページに載せている3D表示を、あと3商品にも追加したい」
商品を360度回して見ることができて、柵を開閉したり、床板を上下させたりできる3Dです。
すでにサイトでは同じような3Dが動いていたので、最初はそれほど難しい話には思えませんでした。
ところが、制作会社に見積もりをお願いしたところ、出てきた金額は約172万円。
3商品に3Dを追加するだけで、172万円です。
そして最終的に、実際にかかった制作費は9万9千円でした。
もちろん、値切ったわけではありません。
安い業者に無理を言ったわけでもありません。
やったことは、届いた見積もりを一度バラバラにして、
「本当に必要なものは何なのか?」
を考え直しただけです。
今回は、そのとき実際に何をしたのかをご紹介します。
高額なシステム開発やWeb制作の見積もりを受け取ったことがある方には、かなり参考になる話だと思います。
相談を受けたのは、岡山で製造・販売を行っているA社です。
A社の商品ページには以前から、商品を360度回して確認できる3D表示がありました。
柵の開閉や床板の上下もできて、商品の使い方が非常に分かりやすい仕組みです。
今回、社長が
「これを、あと数商品にも追加したい」
と考え、いくつかの3D制作会社に問い合わせをしていました。
ところが、制作会社からこんな質問が返ってきます。
「現在利用している3Dサービスへの納品形式を教えてください」
社長としては、そこまで技術的なことは分かりません。
そこで私に相談が来ました。
ただ、私が最初に確認したのは納品形式ではありませんでした。
そもそも、今使っている3Dサービスはまだ存在しているのか?
ということでした。
調べてみると、以前利用していた3Dサービスを提供する会社はすでになくなっていました。
つまり、サイト上では今も3Dが動いているものの、消滅した会社の仕組みに依存して動き続けている状態だったんです。
今は表示されている。
でも、いつ止まるか分からない。
追加制作を頼むこともできない。
修正したくなっても簡単にはできません。
数年前にお金を払って作った3Dが、いわば「人質」のような状態になっていました。
そこで方針を変えました。
以前の3Dサービスを使い続けることはやめて、
「現在と同じように、Web上で3Dを見られて、ARにも対応し、アニメーションも動くもの」
を新しく作ることにしました。
制作会社とのWeb打ち合わせにも参加し、後日見積もりが届きました。
内容はおおよそ次の通りです。
合計すると、
約172万円(税別)
です。
最初に言っておくと、この制作会社がおかしな会社だったわけではありません。
むしろ、3D制作を専門にしている、きちんとした会社です。
見積もりも、
「何にいくらかかるのか」
がしっかり分かれていました。
だからこそ、私は一つずつ見ていくことができました。
そして、この「一つずつ見る」という作業が非常に重要でした。
見積もりをそのまま見ると、
「3Dを作るのに172万円かかる」
ように感じます。
でも、実際には違います。
172万円の中身は、
この3つでした。
つまり、
「3Dデータ」と「3Dを表示するシステム」は別物
なんです。
ここを分けて考えることにしました。
すると、いきなり選択肢が増えます。
3Dデータと、表示する仕組みを、別々の会社に頼んでもいい。
あるいは、表示する仕組みだけ既製品を使ってもいい。
そもそも、自分たちで実装できるかもしれません。
全部を一つの会社にお願いする必要はないんです。
まず調べたのが、
Web3Dビューア開発 70万円
の部分です。
3Dデータをブラウザ上に表示して、ユーザーがグルグル回したり、拡大したり、ARで表示したりするための仕組みですね。
調べてみると、Googleが公開している「model-viewer」というものがありました。
これを使えば、専用のビューアをゼロから開発しなくても、
などができます。
サイトへの実装も、それほど複雑ではありません。
実際には、こんなタグをページに入れます。
<script type="module" src="https://ajax.googleapis.com/ajax/libs/model-viewer/4.0.0/model-viewer.min.js"> </script> <model-viewer src="product.glb" ios-src="product.usdz" camera-controls ar autoplay> </model-viewer>
私が実際にサイトへ組み込むのにかかった時間は、約1時間でした。
つまり、
ビューア開発70万円 → 0円
です。
専用システムを保守する必要もないので、
保守12万円/年 → 0円
にもなりました。
ただ、ここで大事なのは、
「model-viewerという無料のものを知っていた」
ということではありません。
最初に、
「3Dデータを作ること」と「3Dを表示すること」は別の仕事ではないか?
と分けたことです。
分けたから、
「表示するだけなら、既存のものはないかな?」
と探すことができました。
これで残ったのは3Dデータです。
最初の制作会社の見積もりでは、
1点30万円 × 3点=90万円
でした。
では、3Dデータそのものは本当に1点30万円するのでしょうか?
他の制作会社を調べてみると、価格表をWebサイトに掲載している会社がありました。
モデルの複雑さによって価格がランク分けされていて、今回の商品であれば1体1万数千円〜2万円台に該当しそうでした。
そこで、
「今回必要なのは、この程度の品質です」
というところまで具体的に伝えて、見積もりをお願いしました。
最終的に届いた金額がこちらです。
最初の会社では、1点30万円。
実際にお願いした会社では、1点3万円。
ちょうど10分の1です。
「そんなに安いなら、品質が悪いのでは?」
と思うかもしれません。
でも、そういう話でもありません。
違ったのは、必要としていた品質のグレードです。
最初にお願いした会社は、高精度な3D制作ができる会社です。
例えば、自動車部品や精密機器のようなものを、細部まで正確に再現したいのであれば、そういった会社にお願いするのが正解だと思います。
ところが、今回作りたいのは、ご家庭で使われる木製の商品です。
必要だったのは、
「商品の形が分かる」
「木目などの雰囲気が分かる」
「柵が開閉する」
「床板が上下する」
ということでした。
ネジ一本一本まで精密に作り込む必要はありません。
必要以上に品質を上げても、それを見ているお客様にはほとんど違いが分からないんです。
これはWeb制作やシステム開発でもよくある話です。
発注する側が、
「何が必要で、何が必要ないのか」
を伝えられないと、制作会社としては安全な方へ考えます。
高品質にする。
機能を増やす。
専用システムを作る。
保守も付ける。
もちろん悪気があるわけではありません。
むしろ、良かれと思って提案してくれます。
だからこそ、発注する側が、
「ここまでできれば十分です」
と言えることが大切なんです。
今回、私が行った作業の多くは、プログラミングではありませんでした。
A社の社長が制作会社へ送るメールを考えることです。
例えば、最初に見積もりをいただいた会社には、次のような文面を送りました。
かなり短いですよね。
これにも理由があります。
断るときに理由を詳しく説明すると、
「それなら、この部分を下げます」
「ご予算はいくらでしょうか?」
と、また交渉が始まることがあります。
実際、このときも先方から
「予算感を教えていただければ再提案します」
という連絡がありました。
断るのであれば、相手に失礼にならない範囲で、きちんと終わらせる。
それも大切だと思います。
一方、新しくお願いする3D制作会社へのメールでは、かなり具体的に条件を書きました。
このメールで特に重要なのは、
「何をお願いしないのか」まで書いていること
です。
「ビューア開発はいりません」
「ネジなどの精密な再現はいりません」
「ここまでできれば十分です」
というところまで伝えています。
発注するときは、
「こんなものを作りたいです」
だけではなく、
「ここまでは必要。でも、ここから先はいらない」
まで決めた方が、見積もりはずっと正確になります。
そして今回、価格とは別にもう一つ変えたことがあります。
それが、納品形式です。
以前使っていた3Dは、特定のサービスに依存していました。
そのため、その会社がなくなったことで、追加制作や修正が難しくなってしまいました。
そこで今回は、
GLBとUSDZという汎用的な形式でデータそのものを納品してもらう
ことにしました。
これなら、制作会社が将来なくなってしまったとしても、3Dデータ自体はA社の手元に残ります。
表示する仕組みを変更することもできます。
別の制作会社へ修正をお願いすることもできます。
これはシステム開発でもWeb制作でも、とても大事なことです。
安く作れるかどうかだけではなく、
「作ったものが、自分たちの資産として残るのか?」
まで考えておいた方がいいと思います。
今回、以前の3Dサービスがなくなっていたことで、その大切さを改めて感じました。
最終的には、こうなりました。
税込の支払い金額は108,900円です。
相談を受けてから納品までは約3ヶ月。
納品された3Dについても問題なく動作し、現在もA社の商品ページで実際に使われています。
柵も開きます。
床板も上下します。
お客様が商品を見るという目的であれば、十分な品質です。
最初の見積もりは、約172万円。
実際にお願いした制作費は、9万9千円。
もちろん、
「172万円の会社が高すぎた」
という話をしたいわけではありません。
必要な品質や目的が違えば、172万円の提案が正解になる仕事もあります。
今回の問題は、
自分たちに必要なものが何なのかを整理しないまま、まとめて発注しようとしていたこと
でした。
もし皆さんの会社でも、
「これ、本当にこんなにかかるの?」
と思う見積もりが来たら、すぐに値下げ交渉をする前に、一度中身を分けてみることをおすすめします。
私なら、次の順番で考えます。
「この金額の内訳は何ですか?」
と確認します。
今回なら、3D制作・ビューア開発・保守の3つでした。
専用開発と書かれている部分ほど、一度調べてみます。
今ならAIに、
「○○という機能をWebサイトに実装したい。専用開発をせず、無料または安価な汎用サービスで実現する方法はありますか?」
と聞くだけでも、かなり候補が出てきます。
全部まとめてではなく、
「この部分だけならいくらですか?」
と聞いてみます。
比較がかなりしやすくなります。
「高品質な方がいい」
ではなく、
「何ができれば十分なのか」
を考えます。
そして不要なものは、
「これは不要です」
とはっきり伝えます。
特定の会社やサービスでしか使えない形式ではなく、将来ほかの会社でも扱える形でもらいます。
今回ならGLBやUSDZです。
会社がなくなっても、サービスが終わっても、自分たちの資産が残ります。
172万円と9万9千円。
かなり大きな差ですよね。
でも、この差を生んだのは、特別な値下げ交渉ではありませんでした。
「これは何にお金がかかっているんだろう?」
と見積もりを分けてみる。
「本当にそこまでの品質が必要なのか?」
と考えてみる。
「専用開発しなくても、すでにあるものを使えないか?」
と調べてみる。
そして、
自分たちが本当に必要としているものを、言葉にして制作会社へ伝える。
今回やったことは、それだけです。
システムやWebのことがよく分からないと、どうしても制作会社から出てきた見積もりを
「そういうものなんだ」
と思ってしまいます。
でも、高い見積もりが来たときこそ、一度立ち止まって中身を見てみてください。
もしかすると、172万円だと思っていたものが、9万9千円で十分かもしれません。
この記事は実際の案件の記録です。金額は実際の見積もり・請求に基づいています。登場する社名は伏せています。